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生活習慣病

生活習慣病について

食習慣、飲酒、ストレス、喫煙、運動不足などの生活習慣の乱れによって引き起こされる疾患を総称して、一般的に生活習慣病と呼びます。以前は「成人病」と呼ばれていました。一般的に肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常、高尿酸血症、アルコール性肝疾患などが知られてますが、その他に日本人の死因の上位を占めているがんや心疾患、脳卒中なども含まれます。

食習慣

  • 糖尿病
  • 肥満
  • 脂質異常症(家族性のものを除く)
  • 高尿酸血症
  • 循環器病(先天性のものを除く)
  • 大腸がん(家族性のものを除く)
  • 歯周病

など

運動習慣

  • 糖尿病
  • 肥満
  • 脂質異常症
  • 高血圧

など

喫煙

  • 肺がん
  • 循環器病
  • 慢性気管支炎
  • 肺気腫
  • 歯周病

など

飲酒

  • アルコール性肝疾患

など

特に糖尿病、脂質異常症、高血圧はそれぞれが血管にダメージを蓄積させ動脈硬化を引き起こし、やがて狭心症、心筋梗塞、脳卒中、閉塞性動脈硬化症(ASO)など重大な病気へと発展してしまいます。いずれも初期には自覚症状が乏しく、さらに、喫煙などのいくつかの生活習慣病や因子が重なると危険性が相乗的に高まります。生活習慣の改善は生活習慣病の予防につながりますが、糖尿病、脂質異常症、高血圧はかかった後でも生活習慣を改善することが重要であり、また、それらを良好な状態に維持することで未来の重大な病気を予防できます。

  • 1日の運動内容、時間

  • 1日の食事内容、回数

  • 1日の睡眠時間、起床、就寝する時間

  • 飲酒・喫煙の量、回数

など

高血圧

日本において高血圧は、喫煙と並んで、生活習慣病死亡に最も大きく影響する要因とされており、もし高血圧が完全に予防できれば、国内で年間10万人以上の人が死亡せずにすむといわれています。高血圧患者は軽度の方も含めると4000万人以上いると考えられており、それは20歳以上の国民のおよそ二人に一人は高血圧であることになります。もはや国民病といっても過言ではありません。しかし、高血圧患者のうち、少なくとも一度でも通院したことのある人は約50%前後とされ、わが国において50%ちかくの人が高血圧を放置していることを意味します。高血圧自体には自覚症状がほとんどないために、積極的に治療を行わない人が多いのが現状ですが、高血圧の治療を受けずに放置をすると動脈硬化が進行し、脳卒中や虚血性心疾患などを発症する可能性が高まります。そのため高血圧は「サイレントキラー」とも呼ばれています。
また、高血圧は大動脈破裂、急性大動脈解離などの重大な疾患や、慢性腎不全、認知症などの生活に大きな影響を及ぼす疾患の発症リスクも増加させます。
最近では、塩分過剰摂取の危険性が広く認識され、降圧剤の普及により脳卒中患者数は減少しています。それでも日本において、心疾患や脳卒中は依然として死因の上位を占めています。したがって、それらのリスクを高める高血圧は適切な治療を行っていくことが重要です。

日本高血圧学会の高血圧診断基準は下表の通りであり、診察室での収縮期血圧(最大血圧)が140mmHg以上、または拡張期血圧(最小血圧)が90mmHg以上の場合を高血圧と診断します。また自宅で測る家庭血圧の場合は、診察室よりも低い診断基準が用いられます。血圧の値によってⅠ度からⅢ度まで重症度分類されており、他の動脈硬化因子(脂質異常、喫煙、糖尿病、脳卒中の既往、心疾患の既往等)の有無と合わせて治療方針を決めていきます。

高血圧の原因

高血圧の患者の9割程度は、遺伝的要因、ストレス、塩分の過剰摂取、喫煙、肥満などの生活習慣の乱れによって発症しているとされています。塩分の過剰摂取は高血圧を発症する特に主要な原因です。若年~中年男性では、肥満が原因の高血圧が増えており、また、飲酒、運動不足も高血圧の原因となります。
日本人の高血圧は特に食塩摂取の多さと、肥満・メタボリックシンドロームの増加が特徴となっています。

高血圧の原因の残り1割は、甲状腺や副腎の疾患などによるホルモン異常や、心疾患、睡眠時無呼吸症候群などが原因で起こる二次性高血圧と呼ばれるものです。生活習慣に問題がない方でも発症する可能性があります。二次性高血圧は通常の降圧薬が効きにくいことなどもあるため、原因疾患の治療が重要となります。

二次性高血圧の種類

原発性アルドステロン症 

副腎からアルドステロンというホルモンが過剰分泌されている状態。二次性高血圧のほとんどを占め、高血圧以外に症状がない場合が多い

クッシング症候群

副腎、もしくは脳の下垂体が原因でコルチゾールというホルモンが過剰に分泌されるために起こる。高血圧の他に糖尿病、 肥満、皮下出血、多毛などの症状もみられることがある

褐色細胞腫

副腎や神経組織からカテコラミンという神経伝達物質が過剰に分泌されることで起こる。高血圧、動悸、 不安感、ほてりなどの症状がある

腎血管性高血圧

腎動脈が細くなることでレニンという血圧を調節するホルモンが過剰に分泌されることで起こる。若い女性では血管の炎症や血管壁の変化によって発生する場合が多く、中年以降では動脈硬化によって起こる場合が多い

腎実質性高血圧

糸球体腎炎や多発性腎嚢胞などの腎臓の疾患が原因となり血圧が上昇する

レニン産生腫瘍

腎臓の傍糸球体細胞腫や異所性レニン産生腫瘍からレニンが過剰に分泌されることで二次性高血圧をおこす。

甲状腺機能亢進症

甲状腺を刺激する異常な物質が血中および組織の中に存在するため甲状腺が活性化され、甲状腺ホルモンが多く分泌される病気で、バセドウ病やグレーブス病とも言われる。高血圧の他に頻脈、体重減少、手指振戦、発汗増加、びまん性甲状腺腫大などがみられる。

副甲状腺機能亢進症

何らかの原因により副甲状腺が腫大して副甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることによって高カルシウム血症をおこす。血圧上昇なども認められる。

先端巨大症

ほとんどの場合、脳の下垂体と呼ばれる器官にできる良性腫瘍が成長ホルモンを過剰に分泌することで起こる。症状は額、鼻、唇や下あごが大きくなる特徴的な顔貌と、手足など体の先端の肥大。思春期までに発症すると巨人症となる。高血圧、糖尿病、頭痛や視力・視野障害、いびき、多汗、関節痛、手の痺れなどの症状を伴う。

睡眠時無呼吸症候群

睡眠中の呼吸停止が原因で交感神経の緊張が過剰になって血圧が上がる。

血管性高血圧

大動脈狭窄症などの血管の異常が原因で血圧が上がる。

脳幹部血管圧迫

脳幹部の血管が圧迫されることにより、血圧調節中枢の異常をきたし、血圧が上がる

薬剤誘発性高血圧

痛み止め等に含まれる非ステロイド性消炎鎮痛剤、漢方薬に含まれる甘草(グリチルリチン)などにより惹き起こされる偽性アルドステロン症が多い。他にステロイド、交感神経刺激薬、抗癌剤やサプリメント、健康食品などが原因となることもあります。

その他、稀な遺伝疾患など

当院では二次性高血圧の鑑別目的として、治療の前に血中のホルモン量の測定や腹部エコー検査なども行っております。

高血圧治療

リスク分類

血圧の値と動脈硬化のリスク因子の有無などによって以下のように低~高リスクに分けされており、高リスクの方は早期から降圧薬の内服を開始した方が良いとされています。

日本高血圧学会のガイドラインに基づく降圧目標値

生活習慣の改善

「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、成人男性で7.5g未満、成人女性で6.5g未満が目標とされ、日本高血圧学会は、高血圧患者における減塩目標を1日6g未満にすることを強く推奨していますが、WHO(世界保健機関)では5g未満/日と提唱しています。「令和元年 国民健康・栄養調査の概要」によると、日本人が1日に摂取している塩分量の平均値は、男性が10.9g、女性が9.3gと推奨値には遠く及ばない数値になっています。

塩分摂取量以外の生活習慣の改善も重要です。

  •  野菜・果物の積極的摂取
  •  飽和脂肪酸、コレステロールの摂取を控える
  • 多価不飽和脂肪酸、低脂肪乳製品の積極的摂取
  • 適正体重の維持(BMI25未満)
  • 運動療法:軽度の有酸素運動を毎日30分または週180分以上行う
  • 節酒:エタノールとして男性20~30mL/日、女性10~20mL/日以下
  • 禁煙

など

当院では、患者さんが食生活等の生活習慣を改善できるよう、栄養士、看護師等スタッフ一丸となってサポートさせていただきます。お困りのことや疑問点があれば、どうぞお気軽にご相談ください。

降圧剤

高血圧の重症度分類と、リスク分類によって開始される降圧薬の投与量や薬剤数と、その後の治療強化ステップが変わります。血圧を下げるための降圧剤にはアンジオテンシンⅡ受容体措抗薬(ARB)、 アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、カルシウム(Ca)拮抗薬、利尿薬、 β遮断薬(αβ遮断薬を含む)の5種類があり、血圧が大きく変動すると体に大きな負担がかかるため、一般的には、単剤で開始し、降圧不十分な場合に薬剤を増量するか、作用機序の異なる降圧薬を少量で併用、それでも降圧不十分な場合は通常用量での併用、次いで3剤併用、4剤併用というステップで治療強化を行います。治療は患者さんの自宅での血圧値を確認しながら、徐々に薬剤の服用量や種類を調整し、目標値まで血圧を少しずつ下げていくことが重要です。

降圧剤を使用する場合、医師の指示に従って内服を継続し、血圧の平均値を基準範囲内に維持するよう努めましょう。血圧は気温などでも変化し、冬季には気温が下がることで血管が収縮し血圧が上昇しやすい傾向にあります。逆に夏の暑い季節は血管が拡張しやすく、多量の発汗による脱水や塩分喪失が起こり、血圧が低下する傾向があります。したがって、季節により降圧剤の内服量が変わることも珍しくありません。
収縮期血圧が100mmHg以下になることが頻繁な場合、降圧剤の減量について主治医と相談することをおすすめします。

脂質異常症(高脂血症)

血液中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)140mg/dl以上、トリグリセライド(中性脂肪)150mg/dl以上、non HDL コレステロール(総コレステロール-HDLコレステロール)が170mg/dl以上に増加するか 、HDLコレステロール(善玉コレステロール)が40mg/dl未満に減少したために基準値から外れた状態を脂質異常症といい、動脈硬化を引き起こすことが問題となります。

遺伝子異常などから発症している原発性脂質異常症と、生活習慣や疾患に続発して起きている続発性脂質異常症に大別されます。日本国内の脂質異常症の総患者数(継続的な治療を受けていると推測される患者数)は、220万5,000人(男性63万9,000人、女性156万5,000人)と非常に多く、年々増加傾向です。食生活、運動不足、肥満、喫煙、飲酒、ストレスなどの生活習慣が関係する続発性脂質異常症が主といわれています。特に内臓脂肪型肥満の方はLDLコレステロールやトリグリセライド(中性脂肪)が多くなり、HDLコレステロールが少なくなりやすい傾向があります。
また、糖尿病・甲状腺機能低下症・クッシング症候群・ネフローゼ症候群・慢性腎不全・閉塞性黄疸・肝硬変などの疾患や、ステロイドなどの薬剤が原因となる続発性脂質異常症もあります。これらの続発性脂質異常症は、原因を治療もしくは取り除くことにより改善するため、鑑別が重要です。

続発性脂質異常症の分類

A.高コレステロール血症

  • 甲状腺機能低下症
  • ネフローゼ症候群
  • 原発性胆汁性肝硬変
  • 閉塞性黄疸
  • 糖尿病
  • クッシング症候群
  • 薬剤
    (利尿薬・β遮断薬・コルチコステロイド・経口避妊薬・サイクロスポリンなど)

B.高トリグリセライド血症

  • 飲酒
  • 肥満
  • 糖尿病
  • クッシング症候群
  • 尿毒症
  • SLE
  • 血清蛋白異常症
  • 薬剤
    (利尿薬・非選択性β遮断薬・コルチコステロイド・エストロゲン・レチノイドなど)

動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症治療ガイド2013年版
日本動脈硬化学会編 15頁引用

原発性脂質異常症

原発性脂質異常症は病態や遺伝子異常に基づき大きく5つの病型に分類され、病型により頻度は100人に1人のものから100万人に一人のものまで様々です。代表的なものの一つに家族性高コレステロール血症があります。下記が該当する方は早めに医師に相談しましょう。

  • 未治療時のLDLコレステロールが180mg/dL以上
  • 皮膚や腱に黄色腫がある
  • 家族や親せきがLDLコレステロールが180mg/dL以上もしくは若年(男性は55歳以下、女性は65歳以下)で冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞など)と診断されている

脂質異常症を放置すると血管内に脂肪が蓄積し詰まりやすくなる、いわゆる「動脈硬化」が進行し心筋梗塞や脳梗塞などの疾患を引き起こしてしまいます。また、認知症などの原因にもなります。日本動脈硬化学会では、動脈硬化性疾患を防ぐため過去の研究結果を基に、患者さん一人一人が持っているリスクに応じた「管理目標値」を設定しています。特に、過去に動脈硬化性疾患を起こしたことがある方、糖尿病、慢性腎臓病をお持ちの方では、より厳格な管理が必要となります。

脂質異常症はほとんどの場合、適切な治療を受ければ管理可能な疾患ですが、自覚症状がほとんどないため、放置してしまうと知らないあいだに動脈硬化が進行してしまいます。将来の動脈硬化を予防し健康を守るために、脂質異常症に早めに対処することが重要です。

脂質異常症治療のための生活改善

まずは食事療法と運動療法によって生活習慣を見直し、体重、特に内臓脂肪を減らすことが重要です。

高LDLコレステロール血症

内臓脂肪を減らすため1日の摂取カロリーを適正に管理し、1日3食の栄養バランスが取れた食事を摂取することが大切です。
LDLコレステロール値が高くなる原因として、肉の脂身・バターやラード・生クリームなどに多く含まれる飽和脂肪酸の摂り過ぎがあげられます。パームヤシやカカオの油脂、インスタントラーメンなど加工食品にも多く含まれています。また鶏卵の黄身や魚卵に多く含まれるコレステロールも、飽和脂肪酸と比べると影響が小さいといわれていますがLDLコレステロールを高くするため、食べ過ぎは控え活性酸素を除去する働きを持つ野菜や果物、食物繊維が多く含まれるキノコや豆類などを意識して摂取しましょう。

高トリグリセライド(中性脂肪)血症

トリグリセライド(中性脂肪)とは、いわゆる体脂肪に多く含まれます。肉・魚などの脂身、油などの食べ物にも多く含まれており、活動のエネルギー源となる、生きていくうえで欠かせないものですが、増えすぎると様々な問題を引き起こします。中性脂肪が高値になる要因としては、カロリー摂取過多、甘いものや炭水化物・酒・油ものの摂りすぎがあげられます。これらを改めて運動や体重の減量を行うことで、中性脂肪を下げることができます。また背の青い魚に多く含まれるn-3系(ω-3系)多価不飽和脂肪酸(DHA、EPAなど)には、中性脂肪を下げる働きがあります。血中の中性脂肪の値を適切に管理するために、1日30分以上の運動を週3回以上行うことを習慣化し、1日3食の栄養バランスが取れた食事を摂取することが大切です。栄養バランスが取れているからといってカロリーの摂り過ぎは禁物です。腹八分目で抑えるようにしましょう。

低HDLコレステロール血症

善玉であるHDLコレステロールの血中の値が少なすぎる状態です。マーガリンやショートニングなどのトランス脂肪酸を摂取しすぎることは避け、脂質を過度に制限しないように栄養バランスを意識した食事を摂りましょう。運動や体重の減量・禁煙によりHDLコレステロールの上昇が見込まれます。なお、飲酒にはHDLコレステロールを高くする働きがありますが、飲酒は少量でも高血圧や肝障害を悪化させるため、控えたほうがよいと考えられます。

脂質異常症の薬物療法

生活習慣を見直すだけではコントロールできない場合は、薬物療法を行います。
脂質の値が極端に高いなどの原発性脂質異常症が考えられる方は、最初から薬物療法を始めることもあります。高LDLコレステロール血症にはHMG-CoA還元酵素阻害剤=スタチン系薬(プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチン)、コレスチミド、コレスチラミン、エゼチミブ、プロブコール、エボロクマブ、ロミタピドなどが有効です。高トリグリセリド血症の治療にはフィブラート系薬(ベザフィブラート、フェノフィブラート、ペマフィブラート)やEPA製剤(EPA、EPA・DHA)、ニコチン酸製剤があります。
脂質の値をしっかりと管理するために、毎日のお薬の内服を忘れないこと、自己判断で内服を中止しないことが重要です。なお、重症の家族性高コレステロール血症の患者さんにはLDLアフェレーシスという血清中のLDLを直接除去する方法が行われます。

脂質異常症の方は動脈硬化の検査を受けましょう

脂質異常症は、動脈の内側に血液中の悪玉コレステロール(LDLコレステロール)などが沈着してプラークとなり、血管内が狭くなり詰まることで心筋梗塞や脳梗塞などを引き起こします。したがって動脈硬化の検査を行うことが重要です。当院では下記の動脈硬化の検査を行っております。

 頸動脈エコー

動脈硬化の進行状態を確認するために行う検査で、その日のうちに結果が分かります。首にエコーゼリーを塗り、そこにプローブとよばれる超音波機器をあてて総頚動脈、内頚動脈、外頚動脈などの状態をモニターでリアルタイムに確認し、動脈の大きさや血管壁の厚さ、血管内プラークの有無、血流などを評価します。この検査は患者さんには痛みなどの負担をかけない簡便な方法で行われますので、安心して気軽に受けることができます。

血圧脈波検査(PWV/CAVI/ABI)

血圧脈波検査は、血管の硬さや詰まりといった血管の状態を調べる血管機能検査のひとつです。ベッドに仰向けに寝て、両腕、両足首に血圧計のようなカフを巻き、胸元に心音マイクをつけるだけの簡便な検査です。時間は5分程度で済み、痛みなどの苦痛もなく、検査結果もその日のうちに分かります。
心臓が血液を体内に押し出すとき、健康でしなやかな血管では、弾力性や柔軟性に富むため、血管内の圧力(血圧)があまり上昇せず血流速度もゆるやかになります。動脈硬化によって弾力性や柔軟性が失われた血管では、心臓が収縮し血液を押し出すときに血管内圧があがり、血流速度も速くなります。血流が末梢に伝播することを脈波といい、脈波の速度は、血管が正常であれば比較的ゆっくりですが、血管壁が硬い、厚い、内腔が狭いなどの動脈硬化を示唆する所見があるほど速くなります。
血圧脈波検査では動脈硬化の指標として脈波の速度から血管の硬さを評価するPWVもしくはCAVI、上下肢の血圧の比から下肢の動脈の詰まりを評価するABIという数値を測定します。

  • PWV(pulse wave velocity):上腕動脈と足関節動脈の二点の脈波速度を測定します。baPWV( brachial-ankle PWV)とも呼ばれ、血管の硬さの指標になります。
  • CAVI(cardio-ankle vascular index):心臓(cardio)から足首(ankle)までの動脈(vascular)の硬さの指標(index)の略です。PWV同様、脈波速度を表しますが、PWVに比べて血圧に左右されにくいため、より再現性が高いと考えられます。
  • ABI(ankle-brachial pressure index):足関節の収縮期血圧を上腕の収縮期血圧(左右どちらか高い方)で割った数値のことです。下肢の動脈の詰まりの程度を調べるのに有用です。

当院では、フクダ電子社製の血圧脈波検査装置VaSera VS-2500を使用してCAVIとABIを測定します。

糖尿病

糖尿病糖尿病とは、血糖値を下げるインスリンの機能が何らかの原因で低下し、その結果、血中のブドウ糖が増加してしまう疾患群の総称です。具体的には空腹時(10時間以上カロリー摂取しなかった)血糖126mg/dl以上、随時(空腹時ではない)血糖200mg/dl以上、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー、約2カ月の血糖を表す)の値が6.5%以上の場合、糖尿病と考えられます。糖尿病の具体的な症状としては、のどが渇く、多飲・多尿、易疲労感、体重減少などがありますが、初期段階では特別な自覚症状が現れにくく、症状が出るのは比較的進行した段階のことがほとんどです。
高血糖の状態が長年にわたると、動脈硬化により血管障害を引き起こし、手足のしびれなどの神経障害、放置すると失明にいたる糖尿病網膜症、透析の原因として一番多い糖尿病性腎症といった三大合併症もおこります。神経障害により自律神経も障害されると、立ち眩みや胃腸症なども起こり、さらに、大きな血管が障害されると脳卒中や心筋梗塞、足壊疽なども起こすようになります。
糖尿病と一言にいっても、メタボリックシンドロームや生活習慣に起因する2型糖尿病、子供でもなりうる1型糖尿病、その他疾患や薬剤によるものまで様々な原因で起こります。治療方法は、食事、運動、薬物治療などになりますが、糖尿病の種類により、かなり異なります。一人ひとりにあった糖尿病の治療を受けるためには専門医の指導を受けることが重要です。もし糖尿病を疑うような症状が現れた場合、専門医にお早めにご相談ください。

糖尿病について

高尿酸血症(痛風)

高尿酸血症とは、尿酸値が7mg/dl以上の状態をいいます。高尿酸血症には、腎臓における尿酸排泄が低下した「尿酸排泄低下型」、腎臓に対する尿酸負荷が増大し血清尿酸値の上昇をおこす「腎負荷型」、そしてこれらの「混合型」の3つのタイプがあり、さらに腎負荷型には「尿酸産生過剰型」と腸管からの尿酸排泄が低下した「腎外排泄低下型」の2つがあります。日本人は腎臓からの尿酸排泄低下型が多いとされています。女性ホルモンには腎臓からの尿酸の排泄を促す作用があるため高尿酸血症は男性に多く、男女比は約10対1と明らかな性差が認められます。また、遺伝的な要因の影響もありますが、生活習慣などの環境的要因の方が強く影響すると考えられており、明治時代初期の日本では痛風患者はほとんどみられなかったのに対し、近年では、高尿酸血症は成人男性の30%前後、痛風は成人男性の1~1.5%程度でみられます。
血中の尿酸値が長期間にわたって通常の基準値である8㎎/dlを超える状態が続くと、尿酸塩の結晶が体内にたまり、足の第1中足趾節関節(親ゆびの付け根)、肘関節、耳介などに痛風結節が現れ、さらに激痛を伴う痛風発作などを起こします。また、尿路結石、腎結石、そして腎機能障害(痛風腎)の原因にもなります。
その他に、高尿酸血症はメタボリックシンドロームや高血圧などとも関連すると考えられています。その結果、高尿酸血症は動脈硬化を引き起こし心筋梗塞などの発症のリスクとなり得ます。

血中の尿酸は主にプリン体から生成され、プリン体の約80%は体内で生成され、残りの約20%は食事から摂取されます。そもそもプリン体とは、細胞の核に存在する核酸の主成分であるアデニンやグアニンなどと呼ばれ、あらゆる生物の細胞内に存在し、ほとんどの食品に含まれています。食べ物から取り込まれるプリン体のほかにも、からだの新陳代謝によって古い核酸が分解され、エネルギーがつくられる過程でもプリン体が生成されます。このようにプリン体は生き物の体内で重要な役割を担いますが、多すぎると分解されて最終的に尿酸に代謝されます。
尿酸値をさげるためにはプリン体の多いレバーや赤身魚などの食品やアルコール(特にビール)などを控える食事療法や、体重の減量、尿酸値を下げるための薬物療法が重要です。

痛風発作について

血中の尿酸値が高い状態が慢性化すると、第1中足趾節関節やくるぶし、足首、足の甲、膝関節、手首、肘関節に尿酸の結晶が溜まり、激痛を伴う炎症が起こります。これが痛風発作です。“風が吹いても痛い”激痛であったことが語源といわれております。
第1中足趾節関節で起こることがほとんどで、赤く腫れて激しい痛みが起こります。また、足の甲、足首、膝、手首などで症状が起こる場合もあります。特に、脱水状態になると痛風発作が起こるリスクが高まるため、夏の暑い時期は十分な水分補給を心がけて発作を防ぎましょう。また、気温が低くても尿酸結晶ができやすくなるため、冬も注意が必要です。
治療は、消炎鎮痛薬(ロキソニンなど)を使って腫れや痛みを解消することを目指します。症状が落ち着いたら、痛風の再発防止のために尿酸値を下げるお薬を服用して頂きます。

プリン体を多く含む食品とお酒

肉類や魚介類を好んで摂る方、お酒を習慣的に飲む方は、通常よりも多くのプリン体を摂取しやすい傾向があります。特に、レバー、赤身魚、エビ、イカ、タコ、白子、干物、干しシイタケなどの食品には多くのプリン体が含まれているため、過度な摂取に注意が必要です。さらに、一部の健康食品にもプリン体が含まれていることに注意が必要です。ビール酵母、クロレラ、ローヤルゼリーなどが該当します。お酒についても、蒸留酒よりも醸造酒(例:日本酒、ビール、ワイン)に多くのプリン体が含まれています。
飲酒習慣のある人は、飲酒の頻度が低い人々と比べて痛風発作のリスクが2倍に増加するとも言われており、飲酒はできる限り抑えることが重要です。

高尿酸血症の治療

尿酸値9mg/dl以上であれば、生活指導や薬物療法による治療を開始しますが、腎障害・高血圧・糖尿病・肥満などの合併症を伴うものについては8mg/dl以上から食事療法や運動療法、薬物療法といった治療を開始します。また、痛風発作歴があるものは尿酸値7.0mg/dl以上から治療を開始し、いずれも6mg/dl以下を目指します。
薬物療法は、尿酸産生抑制薬や尿酸排泄抑制薬を使って行いますが、急激に尿酸値を下げると痛風発作が起こりやすくなるため、3~6ヶ月程度かけて少しずつ尿酸値を下げるようにコントロールします。

生活習慣

BMI(体重÷身長の2乗で算出される肥満指数)が25を超える肥満体質の方は、痛風発作が起こりやすいため、ダイエットに取り組みましょう。なお、運動療法では医師の指示をしっかりとお守りください。運動は生活習慣を改善し、肥満防止のために良いですが、無酸素運動のような短時間での過度な運動は、かえって尿酸値を上昇させるため、高尿酸血症の方には好ましくありません。
また、しっかりと水分補給をして排尿量を増やすことも有効です。

食事

プリン体の摂取量を1日に400mg未満に抑えることが重要です。肉(特にレバー)や赤身魚、エビ、イカ、タコ、白子、干物には多くのプリン体が含まれているため、これらの食品を過度に摂取しないように注意しましょう。
また、お酒(特に醸造酒)にもプリン体が多く含まれていますので、日本酒を摂取する場合は1合未満、ビールを飲む場合は500ml未満が目安です。飲酒量の管理もプリン体の摂取に影響を与えることから、注意が必要です。

メタボリックシンドローム

「メタボリックシンドローム」とは、「メタボリック(代謝)」と「シンドローム(症候群)」という単語から成り立つ言葉です。
内臓脂肪型肥満があり、かつ高血糖高血圧脂質異常のいずれか2つ以上が共存する状態を指します。

メタボリックシンドロームの診断基準

下記の腹囲の必須項目を満たし、選択項目の血糖・血中脂質・血圧の数値が、2つ以上該当するとメタボリックシンドロームの診断となります。

必須項目

女性 ≧90cm
男性 ≧85cm

選択項目

血糖・血中脂質・血圧の数値が、次の2つ以上に該当していないかチェックします。

空腹時高血糖 ≧110mg/dl
高トリグリセライド血症 ≧150mg/dl
低HDLコレステロール血症 <40mg/dl
収縮期(最大)血圧 ≧130mmHg
拡張期(最小)血圧 ≧85mmHg

日本人の死因の上位を占める心臓病や脳卒中の多くは、高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満、喫煙といった要因が引き起こす動脈硬化が原因となります。これらの危険因子はそれぞれが動脈硬化を進行させますが、危険因子が複数重なると、それぞれの程度が軽くても動脈硬化が進行し、心臓病や脳卒中の危険が高まることが知られています。したがって、メタボリックシンドロームの診断基準の血糖と血圧に関しては、糖尿病の診断基準である空腹時血糖≧126mg/dl、高血圧の診断基準である血圧≧140/90mmHgよりも厳しめに設定されています。
メタボリックシンドロームの考え方はさまざまで国によっても異なります。世界的には高血圧や脂質異常などの危険因子の重複を基盤にする考え方が主流となっていますが、日本では内臓脂肪型肥満を重視しています。そのため、診断基準は体重ではなく腹囲が採用されています。これは、日本人が皮下脂肪型ではなく内臓脂肪型肥満になりやすいためです。お尻や二の腕などにつきやすい皮下脂肪はさほど健康に影響を及ぼしませんが、内臓に脂肪がたまり腹囲が大きくなる「内臓脂肪型肥満」は、高血圧や糖尿病、脂質異常症などをひきおこし、これらが日本人の動脈硬化を進行させてしまうのです。
簡単に言えば、食事、運動などの生活習慣に気を付け、体重を落とし内臓脂肪を減らすことでメタボリックシンドロームにならなければ、日本人の動脈硬化はかなり進行を遅らせられるとも言えます。
横浜市をはじめ、日本の特定健康診査は「メタボ健診」と呼ばれることもありますが、メタボリックシンドロームだけを見つけるために行っているわけではなく、虚血性心疾患や脳卒中などの動脈硬化を予防するための検査が含まれています。

メタボリックシンドロームを放置すると、糖尿病や高血圧までは診断されていなかったとしても、心筋梗塞などの心臓病や脳卒中といった深刻な疾患の発症リスクが増加する可能性があります。「なんだ、ただのメタボか」とあなどらずに食事療法や運動療法を行うことが重要です。