糖尿病は治るのか?— 完治と寛解の可能性について
糖尿病は一度発症すると完全に治る病気ではないとされています。しかし、生活習慣が原因で発症する2型糖尿病などに限って言えば、適切な治療と生活習慣の改善によって、薬を使わずに良好な血糖コントロールを維持できるケースは確かに存在します。
例えば、治療開始時には、糖尿病の指標としてよく用いられるHbA1c(2か月の血糖値を反映します。健常人では5.0-5.5%くらい)の値が8%以上で薬物療法が必要だった方でも、生活習慣を見直し、医師の指導をしっかりと守ることで、薬なしでHbA1cを6%未満に維持できるようになる方もいます。また、初診時にHbA1cが10%以上あったにもかかわらず、食事療法と運動療法のみで6%未満まで改善する方もいらっしゃいます。
糖尿病が劇的に改善する人の共通点とは?
これまで多くの糖尿病患者さんを診療してきましたが、血糖コントロールが劇的に改善した方には共通点があります。それは、生活習慣を大きく変えたことです。具体的には、以下のような変化を取り入れた方が多いです。
- ◆電車を一駅手前で降りて歩くなど、日々の運動量を増やした。
- ◆もともと体重が重い方が、体重を10kg以上減らすなどのダイエットを行った。
- ◆間食を完全にやめるなど、食生活の改善を何年か行った。
- ◆発見されてからすぐに治療を開始した。
一方で、 食事や運動習慣をほとんど変えなかった方の中で、糖尿病が改善したケースはほぼありません。
糖尿病は「治る」のか?それとも「治らない」のか?
答えは治りません。糖尿病とは、言うならば血糖値が上がりやすい体質のことをいいます。太っている人の血糖値が高くなり2型糖尿病と診断されたとして、糖尿病の発見から間もない場合、適切な食事療法と運動療法で減量を行えば、血糖やHbA1cの値が正常値にまで戻るケースがあります。このような場合、糖尿病は「治った」訳ではなく、特別な治療が必要でない状態まで「寛解した」というのが正しいと思います。この場合、生活習慣が元に戻り、体重も元に戻れば、再び血糖値が上がります。つまり、ずっと血糖値が上がらないように体重をコントロールし続けなければならず、見方を変えれば、糖尿病は一時的に改善できても、継続的な管理なしに寛解の状態を維持できない、とも言えます。
重要なのは良好な状態を維持できるかどうかです。
【自分に合った無理のない治療法を見つけることが大切】
お酒が飲める人とそうでない人が存在するように、暴飲暴食を繰り返し、体重が多少重かったとしても糖尿病にならない人はなりませんし、そんなに生活習慣が悪くなく、やせていても糖尿病になる方はなるのです。そのような体質的不平等がある中で、みんな同じ治療法でよくなるわけはありません。糖尿病の治療は、一人ひとりに合った方法を見つけることが重要です。教科書的な治療法はありますが、すべての人に共通する「黄金の治療法」は存在しません。
糖尿病と診断された当初はやる気に満ち溢れ、ハードなダイエットに取り組まれたものの、途中で燃え尽きてしまい、その後リバウンドしてしまい、さらに悪化なんてこともよく目にします。一時的に頑張るだけではなく、「このくらいなら5年後も続けられそうだな」と思える 無理のないライフスタイルの改善を見つけることが、長期的な血糖コントロールの鍵となります。
当院では、患者様一人ひとりに寄り添い、 無理なく続けられる最適な治療方法を一緒に考えていきます。糖尿病と向き合いながら、健康的な生活を目指しましょう。
糖尿病とどう向き合うべきか?—
糖尿病と診断されたら、「この病気とどう付き合っていけばいいのか?」と不安を感じるかもしれません。しかし、正しい知識と適切な対策を身につけることで、糖尿病とうまく付き合いながら健康的な生活を送ることは十分に可能です。
糖尿病の管理において最も重要なのは、血糖値を適正範囲に維持し、合併症を予防、もしくは進行させないことです。そのためには、生活習慣の改善・食事療法・運動療法が基本となります。病状に応じて、内服やインスリン療法などの薬物療法を取り入れることも大切です。
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糖尿病治療の基本は「食事」から!—食事療法のポイント
食事は、糖尿病治療の最も重要な柱です。個人差はありますが、どんなにたくさんの薬を使用しても、食事が乱れれば血糖値は悪化してしまいます。その人によって適切な範囲の食事を続けることで、血糖コントロールがスムーズになり、体への負担も軽減されます。
食事療法の基本ルール
✅ 適正なエネルギー量を守る
→ 過剰なカロリー摂取を控え、内臓脂肪を減らすことで、インスリン抵抗性が改善し血糖が改善しやすくなります。血糖だけでなく、脂質や血圧などの管理の第一歩です。
✅ 栄養バランスを意識する
→ 主食(炭水化物)・主菜(タンパク質)・副菜(ビタミン・ミネラル)のバランスを整えることで、血糖値の急上昇を防ぎます。
✅ 食物繊維をしっかり摂取する
→ 野菜・海藻・きのこ類を積極的に取り入れ、糖の吸収を緩やかにしましょう。
✅ 食事の順番を工夫する
→ 最初に野菜やたんぱく質を食べ、最後に糖質などの主食を摂ることで血糖値の急上昇を防ぎます。
✅ よく噛んで、ゆっくり食べる
→ 一口30回を目安に噛むことで、満腹感を得やすくなり、食べ過ぎを防げます。
「自己流より専門家のアドバイスを」
糖尿病の食事管理については、 独学で本を読むよりも、医療機関の管理栄養士に相談するのが効果的です。専門的な指導を受けることで、 個人の生活スタイルや好みに合った無理のない食事療法 を実践しやすくなります。
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運動療法で血糖コントロールを強化!
運動は、血糖値を下げる効果的な方法の一つです。運動をすると、余分なエネルギーが消費されるだけでなく、 インスリンの働きが良くなり、血糖値の安定につながります。さらに、 ストレス解消や脂肪燃焼、筋肉量の増加など、多くの健康効果も期待できます。
どんな運動が効果的?
運動の種類にこだわる必要はありませんが、 全身を動かす運動が推奨されます。
✅ ウォーキング・ジョギング→毎日の生活に取り入れやすく、継続しやすい
✅ 自転車・水泳→ 関節に負担をかけず、無理なく続けられる
✅ ストレッチ・軽い筋トレ→ 血流を良くし、基礎代謝を上げる
運動を習慣化するコツ
- ◆毎日続けられる軽い運動を選ぶ(例えば、食後の15分ウォーキング)
- ◆週末にまとめて激しい運動をするより、日々の軽い運動を積み重ねる
- ◆テレビを見ながら体操するなど、生活の中に無理なく取り入れる
- ◆軽く息がはずむくらいの運動強度で1日30分以上、週3回以上が目安
- 生活習慣を変えても血糖値が下がらない場合は?— 薬物療法の活用
食事や運動だけで血糖コントロールが難しい場合は、薬物療法を組み合わせることで、より安定した血糖管理が可能になります。
糖尿病の薬にはどんな種類がある?
糖尿病治療薬には、さまざまな種類があり、 患者さんの病状に合わせて処方されます。
✅膵臓のインスリン分泌を促進する薬
✅インスリンの働きを高める薬
✅ブドウ糖の吸収を抑え、血糖値の急上昇を防ぐ薬
✅尿から余分な糖を排出する薬
薬物療法のポイント
- 自己判断で薬の量を増減させない(医師の指示に従うことが重要)
- 薬の種類や量は、血糖値の状態や合併症の有無、肝臓や腎臓の機能などを考慮して調整される
- 最近では、食欲を減らすなどの副作用を利用して、体重減少効果のある薬などもある。
どんなに食事、運動に気を付けたとしても、薬物療法が必要なことも多いです。そのような方は、早めに薬物療法を行うことが重要です。
食事・運動・薬物療法の3つを、患者様一人ひとりのライフスタイルに合わせた形で組み合わせ、継続可能な独自の治療法を見つけることが、我々糖尿病専門医の一番の仕事です。
当院では、医師、看護師、検査技師、栄養士の多職種で連携しながら最適な治療法を考えてまいりますので、糖尿病でお悩みの方、健診結果で糖尿病の疑いがある方、糖尿病が疑われる症状でお悩みの方などはお気軽にご相談ください。